2013年12月11日水曜日

菊の炭の物語りを味わう

 


 窯口で勢いよく燃え盛る薪の炎。いよいよ炭焼きが始まった。窯の温度をあげるため、強い火力が必要なので、1年以上も乾燥させた薪を使って火を焚く。躍る炎、赤く輝く炎、ずっと見ていてもまったく飽きない。子供も交え、10人ほどの炭焼き体験希望者と始めた今年の炭焼き体験第1日目の作業は、まず我々が苦労して作った「窯木(かまぎ)」を窯の前まで運び、中へと入れる作業である。細い窯木は奥へ、太い窯木は入り口近くへと、手渡しをしながら窯内に隙間を作らないよう縦に整然と並べていく。このドーム状の窯の広さは、直径約2m、高さは最も高いところで1.75mほどである。

 そこに、その時の窯木の太さによって違いがあるが、今回は470本ほどの窯木を並べ、その上に、この地方では「バイタ」とよばれるクヌギの細枝を束にした柴を、ぎっしりと詰め込んでいく。この作業が結構大変で、狭い空間の中で、舞い上がる炭埃や扱いにくい窯木や柴と格闘しながら、最後は体を動かすのも、窯から抜け出すのもやっとという状態まで詰め込んでいく。この作業を終えると、トタン板で窯木と窯口を仕切り、薪を燃やすスペースを作り、予備燃焼をして、第1日目の作業は終了である。

  2日目からが炭焼き本番。といってもひたすら窯口で火を燃やすことが殆どの作業。最低でも8時間は焚かなくてはならないのだ。「炭焼き」というと、皆さんは「窯木を燃やして炭を作る」と思われるかもしれないが、そうではなく、窯口で薪を焚いて、窯内の温度を、窯木が熱分解を始める温度といわれる400~500℃ぐらいまであげるのである。「窯木-煙=炭」。木の中に含まれている水分、セルロース、リグニンなどの成分を熱分解して、煙として追い出してしまう、そのためにひたすら窯口で火を焚くのである。やがて窯内の温度が600℃ぐらいに達して、外から熱を加えなくても、自ら熱分解を始め、空気だけを供給してやればいい状態となるので、空気の供給口だけを残し、窯口をレンガで遮蔽する。ここまでが、2日目の作業。作業が終わる頃には、7時を回り、すっかり暗くなってしまったが、日没直前のわずかな時間、向かいの山に陽があたり、山が真っ赤に燃え上がった。



 そして、この日は公園のセンターにある囲炉裏(いろり)を使っての「お茶会」も行われた。別のボランティア・グループで茶道の心得のある方、そして地域の中学校の茶道部の生徒さんによるお点前である。ひたすら火を燃やす合間を縫って、我々もちょっと優雅なひとときを楽しむ。

夏の下草刈りなどの手入れをし、何年も時間をかけてクヌギを育て、葉が散った秋にはクヌギを伐採し、山から降ろして窯木づくりをし、窯に入れ、窯焚きを経て見事な「菊炭」に変身させる。そんな炭の物語が、お点前の静寂の中に、完結しようとしている。頂いた一服の抹茶のなかに、太閤秀吉の茶会の昔から続いてきた、その菊の炭の物語を味わう。


 そして3日目、煙の色や量を観察し、煙道の温度を計測し、窯内の状態を推理しながら、ゆっくりと1日がかりで炭化を促進させ、4日目に炭化がほぼ終了したと判断し、煙道、窯口を完全に砂で遮蔽し、空気の供給を断つ。これが「くどさし」である。ここまでの作業をやっと終えた。この後は「窯出し(炭出し)」の日まで窯が冷めるのを待つのみである。今年の夏の異常ともいえる暑さ、例年より1ケ月早めた第一回目の炭焼き。一応考慮しながら、炭焼きを行ったが、どんな影響を炭の出来具合に与えているか、それは窯を開けてみるまでは分からない。またそれが楽しみなところなのだが ・・・。
  
  

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